「タイと日本。2つの国の間でできること」
昨年、熊本市を舞台にした日タイ共同制作映画『アリエル王子と監視人』が日本とタイで公開。その制作現場には、タイと日本どちらも経験し、その隙間を埋めようと駆け回るプロデューサー兼コーディネーター・北本崇人さんがいました。そんな北本さんが、現場で感じたこととは———?
北本 崇人(きたもと・たかと)
Little HELP Co., Ltd. 代表取締役社長。2001年に来タイし俳優、モデルとして映画やドラマに出演。2008年に同社を設立。「伝えたいを形にする」を軸に、タイでメディアプランニングやイベント企画、コーディネーションと幅広く活動中。
(c) TNC inc./KIRINZI inc./Little Help Co., Ltd. 2015
まるで『ローマの休日』を彷彿させるようなストーリー。その舞台はローマではなく、熊本市でした。
ここ数年、タイでは日本を撮影地として選んだ映画が増えています。中には、「日本を好きになってほしい」と自治体から声をかけて実現したものもあるのだそう。
熊本の自然を望むワンシーン
「今回の映画のきっかけは熊本市で、『派手な観光地ばかりを映すのではなく、自然体の熊本をタイの人たちに知ってほしい』というのが先方の希望でした。僕の仕事は、もとはタイ側のキャスティングとマネジメントだけでしたが、最終的には俳優として出演し、プロデューサーとしても全体に関わることになりました。だからこそ『本気でいいものを作ろう、本気でタイの人たちへ届くものを作ろう』という想い入れは強くありましたね」
俳優陣は主演・助演含めタイ人と日本人が入り交じり、スタッフも監督は日本人、撮影チームはタイ人と、まさに日タイが混合する現場。言葉や感情の捉え方、演出、構成など、日本人とタイ人の感覚的なズレが生じることも多々あったのだそう。
何気ない街中をふたりで歩く
「日本とタイの距離を埋める。それが自分の役割」
制作期間は1ヶ月弱と短い。そこで北本さんが徹したことは、日本とタイの距離をどう埋めるか。「例えば、同じゴールを目指していても、そこにたどり着く方法はいろいろあるでしょう?その方法を制作スタッフ同士で共有できないと現場は進まない。『なんで“当たり前”のことができないんだ』と思うようになってしまう。けれど日本の“当たり前”がタイの”当たり前”では決してないし、その逆も然り。そのどちらもわかるからこそ、このズレを解消するのが僕の役割だと強く感じました。特に異国の地で撮影を行っているタイ人チームは、意識してケアしようと動いていました」
クランクアップから約1年後、日本とタイで封を切られた本作品を見た時、北本さんは何を感じたのか。
「時間がなかったにせよ、もっとできることはあったと反省する部分もあります。ストーリー構成や撮影も含め、もっとタイの人たちの目線で作れたんじゃないか、と。もし次の機会があったら、企画から徹底的に意見をぶつけていきたい。まだまだ勉強していかないとですね」
試写会イベントでのキャスト・スタッフ集合写真
今、タイの若者の間では、日本映画のロケ地を巡る本に関心が集まっています。そんな興味の種は、こんな舞台裏から蒔かれているのかもしれません。
(c) TNC inc./KIRINZI inc./Little Help Co., Ltd. 2015
『アリエル王子と監視人』
タイの王子がお忍びで来日し、出会った熊本の日本人女性。そこから熊本を舞台にした3日間のロードムービーが始まる。主演はチャーノン・リクンスラーガンさん。王子の相手役という主要な役どころに伊藤恵美子さんが出演。
(取材・文:山形美郷)