イラストで刻む、旅の記憶と日々の風景

イラストで刻む、旅の記憶と日々の風景_1

 鉛筆を手に取り、うっすらと下書き。筆ペンに持ち替えると、筆先を柔らかくしならせ、滑らかに進んでいく。力みは何も感じられない。そしてあっという間に、彼の分身のようなかわいらしいクマが現れました。

「絵を描く時は、一瞬で違う世界に飛んでいく」という彼は、子どもの心を大切にしているとも言っていました。子どもは、大人よりも楽しくてシンプルだから、と。

 このイラストを描きあげたのが、タイの若者カルチャーを牽引する雑誌『a day magazine』のアートディレクターを務める傍ら、イラストレーターとしても活躍しているミーさん(タイ語で「クマ」の意味)です。大きな体とは裏腹に、柔らかく繊細な空気を身にまとい、どこか日本人のような雰囲気を漂わせています。

 まっすぐ前を見て、一つひとつの質問に対し、その意味を考えながらゆっくりと口を開く。

ときに、記憶の底を探るように時間をかけて考える。質実剛健。そんな彼を見ていて、この言葉が頭に浮かんできました。

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「今まで、旅先から自分宛に絵はがきを書くことがよくありましたね。旅行へ行ったら今まで見たことのないものに出合えるので、刺激を受けてイラストを描きたくなるし、描くことでその時の気持ちや景色が、より記憶に刻まれている気がします 。最近は手紙を書くこと自体、めっきり減ってしまったんですけどね」

 何気ない日常から新しいキャラクターやアイディアが生まれるというミーさんが、今のシンプルで柔らかいタッチ、力みのないかわいいキャラクターに出会うまでどんな経緯があったのか。そう問いかけると「これが自分のスタイルだ、と見つけたのはここ数年です。自分のスタイルとは、自分が好きなスタイルだと思っています。とにかく描いて描いて、描き続けました。自分のスタイルを探すために、いろいろなタッチや技法、キャラクターに挑戦しました。私は今の自分の、素朴でシンプルなスタイルが一番好きです」と淀みない答えが返ってきました。

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「シンプルに、かわいく、ハッピーに。これが僕のイラストの基本です」

 大の日本好きと言い、今年に入ってからも東京マラソンに出場するために日本を訪れ、その個性的な演出やフードサービスの充実、スタッフの細やかな気配りなどいたく感激したのだそうです。また日本映画も大好きで、特に、食・ライフスタイル・自然・地域(街)をテーマにしたものに興味があるという。それは、自分たちの雑誌が軸に据えるコンセプトでもあるからです。

 日本の文化を好むミーさんが生み出すかわいいキャラクターたちが、日本とタイの距離をもっと縮めてくれる。彼を見ていると、そんな気がしてなりません。

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※『a day magazine vol.166』でランニング特集を行って以来、すっかりランニングが趣味として定着したミーさん。

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いわさきちひろさんのイラストが好きであり、大の日本好きでもあるミーさんは、以前日本にある「ちひろ美術館」を訪問。その時にも、ポストカードに自分自身の気持ちと記憶をイラストにしたのだそうです。

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インタビュー後、自画像であるシロクマを目の前で快く描いてくれました

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タイを象徴するトゥクトゥクもミーさん流に。この動画はFacebookで公開!
www.facebook.com/bangkokmadam

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ミーさん愛用のペンは韓国製のTouchと筆ペン

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(profile)
ジラナロン・ヴォンスントーン(ミー)

タイで幅広い世代に読まれるライフスタイル雑誌『a day magazine』のアートディレクター。好きなイラストレーターはいわさきちひろさん。Instagramでは自身の製作の様子を動画で公開中。
instagram.com/jiranarong/

 

 

(番外編)
ミーさんに直撃!
もし初心者が手紙にイラストを添えたいと言ったらどんなアドバイスをする?

A
1 当たり前のことですが、ちゃんとそのものをしっかり見て、描くこと。

2 色も線もあまり使わないで、シンプルに描くのもいいですね。

3 余白があったら、もっと雰囲気を出すためにドットや線を追加してもOK。でも、スペースは残して、たくさん描きすぎないのがポイントです。

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(編集部談)
取材当日、実はタイスウィーツの手土産まで持ってきてくれたミーさん。
どこまでも思いやりのある方でした。

 

(取材・文:山形美郷)

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