「もともと書くことが好きだったんですよね」
そう話すのは、スクンビット49にレストランを構える川合万理子さん。北海道・十勝におじいさんの代から始まった牧場を持ち、そこで育てている大平牛を輸入し、ビーフシチューやローストビーフなど様々な料理を展開しています。
取材当日、缶のボックスいっぱいに入った手紙を持ってきてくれましたが、それでも家にある3割ほどなんだとか。タイに来たのは高校卒業後。こっちにたまたま知り合いがいたのがきっかけで、シーナカリンウィロート大学でタイ語を勉強し、卒業後は通訳として働いていたと言います。結婚は21歳のとき。タイに来てから10年。年々メールの割合が増えているとは言われつつも、手紙の交流は続いています。
タイに来てから届いた手紙たち。これでもほんの一部なのだそうです
そんな万理子さんの心に残るのは、お母さんから送られてくる手紙の数々。多い時には、月に2回ほど手紙が届くと言います。
「なんでかはよくわからないんですけれど、私が落ち込んでいる時に限って、それを見透かしたかのような内容の手紙が母から届くんですよ。しかも、そのときの私にぴったりの言葉が刻まれていてびっくりします。印象に残っているのは、去年の1月。『人生山あり谷あり。それぞれに楽なことばかりでもないし苦労ばかりでもないし……自分自身の心の持ちようかな』と書いてありました。その当時を振り返ると、仕事が忙しくて気持ちが下向きになっていたときでしたね。母親の字って小さいころからずっと見ているじゃないですか。だから、その字を見るだけで心が落ち着くんですよね。別に字がうまいとかヘタとかじゃなくて、『あ、いつもの字だ』という安心感があります」
「母からの絵手紙は、四季の変化を知らせてくれます」
今は携帯電話のメールやLINEが主流。文字は書くのではなく、打つ時代に変わっています。文字を間違えても、修正や削除、訂正がすぐにできてしまう。その気軽さとスピード感が逆に苦手と万理子さんは言います。
「私はじっくり考えて、気持ちを整理して書きたいタイプなんです。実は、高校から今まで日記を毎日綴っています。それはもう日課というか、自分の毎日の習慣で染み付いているかんじです。日記帳は、ベッド横の引き出しに締まっていて、一日の終わりに振り返って書いていますね。ただ、長文で何かを綴るというよりも、その日の気持ちをただそこに吐き出しているかんじです。『もう疲れた、何もやりたくない』みたいな(笑)。私の中で日記は、自分に向けた手紙のような感覚なんです」
万理子さんは、記念日のような特別な日ではなく、ふだんの何気ないときに手紙を書くのだそうです。その手の届く距離感が、自然と筆を走らせるのかもしれませんね。
「手紙が届いたときの気持ちは……いつ来てもやっぱりうれしいですよね。メールボックスを見るのは2〜3日に1回。ほとんどは仕事後の疲れているタイミングで開くので、そんな時に届いていたら、余計にうれしく感じますよね。『すぐ見るか、後から見るか?』———
私は我慢しきれないんで、すぐ読んじゃいます」
お姉さんからは旅先からよくポストカードが届くのだそうです
お店おすすめは大平牛のビーフシチュー 650B
わさびじょうゆでさっぱり食べるローストビーフ 550B/100g
自家製チーズケーキ 120B
(profile)
川合 万理子/かわい・まりこ
高校卒業後に来タイ。シーナカリンウィロート大学でタイ語を学び、通訳として活動後、2015年4月に北海道レストラン「Peko」をタイ人の旦那さんとともにオープン。小学3年生から習字を学び、師範代の資格を持つ。
(info.)
Peko
5/15 Sukhumvit 49
083-542-3199
11:30〜14:30/17:30〜22:30(月曜定休、L.O.は30分前)
www.facebook.com/pekokitchen
(取材・文:山形美郷)