その時の気持ちをそのまま文字に 「手紙はおしゃべりの延長です」

 

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「年賀状の数は年々減っていますが、今でも100枚以上をタイから日本へ送っています。もちろん手書きで。その時期は完全に年賀状貧乏になっていますね(笑)」

本誌連載では20年以上にもなるタイ暮らしの中で出合った珍エピソードをお届けするコラムニスト・辰田さんは、小学校1年生のころから、母親の教えで夏休み・冬休みの時候のあいさつを送っていました。

「最初は親から言われたからやっていたのですが、手紙を書くとその返事がやってくる。その返事をもらうのがうれしくて、そこから手紙が好きになっていったんでしょうね」

さらに熱が入ったのが、中学生のころ。当時はもちろん、携帯もポケベルもない時代。ご本人曰く“手紙魔”だったようですが……

「読んでいた『中学生新聞』の後ろの方に文通相手募集のコーナーがあって、それを見つけたときに『これはやるしかない!』という衝動に駆られたんです。『同じ時代に生まれた人たちがいっぱいいるんだから、少しでも多くの人たちと関わらないともったいない!』って——— 授業を受けている場合じゃないとまで思い、学校を休んで書くときもありましたね(笑)。実は、一番初めに文通を始めた人はタイ人の女の子だったんですよ。当時はエアメールが届いただけでも感動するほどだったのに、今ではその国に住んでいるんですから。すごい偶然ですよね。他にも、ネパール人やケニア人といった海外の人たちとやりとりしていました」

そんな手紙の交流が多い辰田さんが、一番長く文通が続いているのが、小学校5・6年生の時の担任である、松井知恵子先生。「その当時からずっと、もう40年以上も手紙のやりとりは続いています。ただ何かあって相談をするわけじゃなく、お互いの近況報告をしているだけなんですけどね。もう17〜18年は会えてないけれど、先生を身近に感じていますね。ついこの間も先生から手紙が届きました」

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「手書きだと、その人の声が聞こえてくるような温もりがありますよね」

辰田さんが手紙を書く時に大事にするのは、定型文ではなく、飾らない、そのままの自分の言葉を書くこと。そう考えるようになったきっかけは、高校時代に友だちへ書いた年賀状。ふとその場で思いついたことを書いて送ったら、友だちは大笑い。今でも会うたびに笑われているのだとか。ちなみにその内容は、「リンゴを砂糖水で煮て、ヨーグルトをかけて食べるとおいしいよ」だそう(笑)。

この体験が今でも自分の中で活きているので、今のコラムでも読者のみなさんと実際におしゃべりしているように楽しんでもらえる文章を、常に意識していると話してくれました。

「決まり文句のような言葉を使うと、後に続く言葉ってだいたい想像がついちゃうでしょ。そうすると、読まなくてもいいやって思っちゃう。コラムでも手紙でも、自分の言葉、そのときに浮かんだ言葉を使おうと心がけています」

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コラムの原稿を書く時は必ずこのペンとレポート用紙だそう

手紙を受け取る機会が減ったからこそ、ポストに手紙が入っている瞬間に出合うと「記念日にしたい!」と思うほど気持ちが高まるという辰田さん。相手が自分の手で書いた文章が、文字が、距離を超えて自分の手の中にある。手紙とひと言で言ってしまうと何気ないことですが、日々の中には、こんな小さな記念日がいっぱい生まれているのかもしれません。

……余談ですが、辰田さんには一度だけ年賀状を見送った年がありました。そしてその翌年、何ごともなかったかのように今までの友人に送ったら「もう死んだのかと思った」と言われ、「これは送らねば死んだ者扱いになる」と思い、それ以降は躍起になって送ったそう(笑)。

 

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集めているポストカードの中でもお気に入りのものを。「とにかく、いつでも手紙を出せるようにポストカードや切手はストックしています。とくに切手は、タイの国が伝わるような記念切手を選んで買っていますね」

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(profile)
たつだ・かなえ
1990年、来タイ。半年で帰国するつもりが今の旦那さんと出会い、そのまま在タイ者に。タイの日常にある驚きや面白さを独自の視点と大阪弁で伝える、本誌の人気連載『タイ生活』の執筆者。

 

(取材・文:山形美郷)

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